(3) 消えた西印田駅の謎に迫る!
さて、いよいよ当サイトのサブタイトルに掲げた「消えた西印田駅の謎」に迫りたいと思う。この駅について探求したいと思った理由は次の通りである。
開業当時の一宮の玄関として設置されたものの わずか半年で廃止となった駅であるため 関連情報が少なくこれまで有志の方々による「西印田駅」の明確な位置の特定について明確なエビデンスに基づいた報告はなくこの付近であろうという推測の域を出ないものしかなかった。その上、当然のことではあるが当時の地図類ではこの駅名の記載はなく位置特定の困難さを物語っている。しかし仮にも開通当初一宮の玄関として設置された駅であり過去の史料にこの駅の名称は数多く散見される割に存在した正確な場所を示したものは見当たらなかったため是非とも特定したいという強い思いが消えず今回様々な資料を閲覧することでその謎に迫ってみた。
最初に私の編み出した結論を述べることにする。
「西印田駅」は「花岡町駅」と同一場所若しくは花岡町に限りなく近い場所に存在したと思われる。根拠は次の通りである。
(参考:東一宮~花岡町間距離=0.6km)
根拠<1>
官報. 1913年02月06日著者大蔵省印刷局 [編] 通運記事内に西印田駅~東一宮駅間は「0哩4分」との記載があり換算すると約643mになる。また印田~東一宮駅間は 「0哩8分」 との記述があるが 一方、官報. 1912年09月11日著者大蔵省印刷局 [編] 通運項目上でも印田~西印田間が「0哩4分」と記されていることからもこの距離が証明されることになる。
根拠<2>
昭和12年発行・鉄道停車場一覧. 昭和12年10月1日現在・鉄道省 編によると東一宮~花岡町間の距離は0.6kmと記されている。但し、当文献上での位置表記は「一宮市城崎通5丁目」とされているが西印田駅が存在した1912年頃の資料ではこの表記は見当たらず単に「印田」の西方に位置することから「西印田」とされた可能性もある。
根拠<3>
「名古屋鉄道100年史」名古屋鉄道広報宣伝部刊・平成6年6月13日発刊の一宮線の年表によると大正2年(1913年)1月25日、西印田~東一宮間0.6kmが開通したと記載されている。
根拠<4>
「名古屋鉄道・一世紀の記録」清水武・田中義人著(アルファベータブックス刊)に西印田~東一宮間が0.6kmであるとの記載がある。著作者である清水武氏 は名古屋鉄道で運転部門の役員の経歴を持たれ名鉄に関する数々の著作をなされてきておりまた営業当時の一宮線を写真で記録をされた方であり、 田中義人氏も同じく名古屋鉄道に勤務され後に名鉄資料館館長を経験された方なので記述の正確性に疑う余地はない。
根拠<5>
「一宮市史」第八編交通・第二章・鉄道・第五項(一宮市役所編集)に一宮線に関する記述がありその文中「西印田駅は大江川の東方に存在した」との記載があるが、敢えて”大江川”と記したところをみるとこの河川からそれほど遠くない場所と解釈するのが妥当と思われる。 因みに大江川から花岡町駅までの直線距離は東へ200mである。
以上の資料が示すように具体的な距離を見れば東一宮~花岡町間の距離からして上記の結論とならざるを得ないのである。いわば西印田駅が一旦廃止された後、新たに花岡町駅として復活したと考えると理解しやすい。しかし、なぜ一旦廃止されたものが駅名を新たにして復活した理由を考えるとそれは時代背景の変化があったと思われる。それは当時からこの地方の繊維産業の発展と共に隆盛を極めた遊廓「花岡園」が 花岡町駅の北方向に あり人々の流れが生まれたためと考えられる。いずれにしても、以上の考察の結果ようやく結論に辿り着くことができたことは嬉しい限りである。
一宮線・大江川鉄橋橋台跡
歴史の流れに埋没してしまった一宮線。しかしながら今回その廃線跡を自分の眼で歩いて確かめてみると鉄道路線としての遺構は僅かにしか残存していないのにも関わらず当時に思いを馳せることができたのはやはり当時の軌道が一部を除き道路に転用されながら地元の方が廃線後も「電車道」と呼んでいるくらいほぼ全線に渡りその軌道跡が現存していることが大きい。それと花岡町駅付近及び岩倉駅付近に見られる見事な軌道跡のカーブは当時の情景に思いを巡らせるには十分である。更に沿線在住の御長老の方に一宮線についての思い出をお聞きする機会があったが花岡町駅と浅野駅を利用した記憶はあるが印田は知らないし、まして西印田駅の存在の話は誰からも聞いたことはないとのことであった。それは致し方ないことであると思う。それだけ遠い昔の出来事なのだから・・・。半世紀に渡り人々の思いを乗せて走り続けた一宮線。もう誰も振り返ることはないのだろうか。それでもこの先いつの日かこのサイトをご覧になり興味を持たれた方がこの一宮線をまた回顧していただくことでずっと語り継がれていくことが出来れば幸いである。
<参考文献・資料>
● 名古屋鉄道社史(名古屋鉄道株式会社社史編纂委員会 )
● 名古屋鉄道100年史(名古屋鉄道株式会社広報宣伝部刊)
●一宮市史・下巻(一宮市役所編集)
● 名古屋鉄道1世紀の記録・ 清水武田中義人著 (アルファベータブックス刊)
● 官報(国立国会図書館デジタルコレクション)
● 鉄道停車場一覧(鉄道省 編・ 国立国会図書館デジタルコレクション)
● 今昔マップ on the web (埼玉大学教育学部 人文地理学研究室 谷 謙二)